落とし物箱

出会っちゃった人たちの話がしたい

ちょっと今から仕事やめてくる




なんかもう全部がダメだったのでなんとか形に残すことでこの作品に終止符を打ちたい気持ち。


ネタバレに関しては特に核心をつくことは言ってないけどそれっぽい内容には触れてるので避けたい方は避けてください




原作は読んだことがなくて、映画は公開したタイミングだったか配信だったかで見た記憶。なんとなくのストーリーというか隆の前からヤマモトが姿を消すのは覚えていたけどそれ以降覚えてなかったくらいで見た。からラストの展開にそんなことあったっけ!?の繰り返しで打ちのめされてしまい本編の記憶がほぼない。公演後にうめつの上げた写真の衣装の記憶がないくらいにはダメだった。あの衣装着てなかったもん!って友達に言い張って2回目みたらちゃんと着てた、笑われた、泣いちゃった。
そもそも私情によりうめつの作品に関して初見で覚えていられることがほとんどないのはいつものことなんですけど、今回はキャラクターしかり作品しかりで割と大丈夫だとたかを括っていた。自業自得。


隆の世界が視覚と聴覚を上手に使って立体的に感じられる演出だったのに対してヤマモトは隆の見えている世界にしかいなくてどこか現実離れをしている不透明さがあるこの対比面白かった。そんなヤマモトを演じているのが梅津瑞樹だったの上手な配役だったなと改めて感じてる。だからこそはっきりせず手が届きそうで届かない不安定な彼の実態が後半怒涛の勢いで鮮明になっていく流れでもう手も足も出せなくなってしまった。


ヤマモトと出会ったことで人生がガラリと変わった隆に対してヤマモトは5年間トラウマから克服できずにずっと自分を責め続けながら生きていて、あの日から一歩も先に進めず足踏みしていたことをラスト5分でマジックの種明かしかのように独り語りとしてお出しされる。それを見ながら雷に打たれたように座席で固まってしまった。座席という動けない場所に縛られていたから最後まで見ていられたもののそんな状態じゃなかったら暴れ出していた。頭の血管ブチ切れそうだった。なんであんなことになってしまったんだろう。久しぶりに我を忘れて暗転する舞台をぼーっと眺めていたら気が付いた時にはカーテンコールが始まっていた。

3年前のあの日からヤマモトは周りにいる人間や親はもちろん自分に対しても気を使って生きていて、そんな彼の目の前に突然現れたのがあの日の彼と同じ顔をした隆で。いてもたってもいられずに手を差し伸べた時、ヤマモトは陽気な関西の男として出会うわけで。それが咄嗟の行動だったのか自然と出たものなのか、どこまでが彼の計算であるのか私にはわからなかったけれど、あの調子で話し始める梅津瑞樹の顔をした男はどこか見せかけの姿なようにも写った。気遣いが邪魔をしてストレートに言葉を投げられないからこそ伝えたいことがそのまま伝わらないことだって日常の中では結構あるわけで。それが方言になるとその言葉を真っ直ぐに投げても嫌な気持ちにならない不思議な魔法みたいなものがかかっているように感じた。だからこそ彼は関西人というキャラクターを選んだのかもしれないし、普通に素が出たのかもしれない。それが結果的に隆にぐいぐい入り込んでいく手段として良く作用したんだよな。初めて会って、話をして、話を聞いて、最初から仕事をやめる選択肢を隆に提示しなかったのこの作品の好きなところ。ヤマモトに出会ってアドバイスを聞きながら仕事へのモチベーションを上げて右肩上がりになっていく隆がきらきらしていて見ていてわくわくもした。人間が煌めいていくのを見守るのは楽しい。
そんな状態がまあ長くは続かないので、だんだん仕事が上手くいかなくなるんだけどそんな状態で隆から遠ざけられていてもヤマモトはコンスタントに連絡を取り続ける。隆の前では明るい顔をするけど、メールのやりとりや電話で隆の様子がおかしいと感じるとスッと冷静に対峙するの、頭をフル回転させながら次の言葉と取るべき行動を選んでいたんだろうその姿に自分の過去を重ねながら今回こそ救いたいという願いがみえて。飲みたい気分じゃないと断られた時にカフェに連れていく起点の利き方にまた押しつぶされそうになった。どんなにひとりになりたいと言われようとも強引にでも一緒にいられる場所をつくる。隆を救うことによって少しだけ自分の気持ちも軽くなると思ったのかもしれない。隆の話を聞くヤマモトの表情と相槌はすごく優しいもので、良い物だった。私情によりずっと眉間に皺は寄ってたけど。ふざけながらも隆の話を聞いた帰り道ふっと小首を傾げながら「隆にとって会社をやめることより、何が簡単なの?」って聞くあの表情。必死さを抑えつつ大事な話としての説得力を持たせながら優しく聞くヤマモト、照明と相まって綺麗すぎたな。

隆が屋上から飛び降りるのをヤマモトが止めに入る時、2人の背中しかみえない演出に信頼を感じていた。受け取る情報量が少ないからこそこっちも必死で手繰り寄せるように息を殺しながら見ている時間はあの瞬間に自分まで立ち会っているかのようで。ヤマモトの手を取った時の安堵感とそして隆の背中を支えながらも屋上の扉をそっと閉めにいくタイミングまで隙がなかった。隆だけではなくヤマモトの誰も内側に入れない雰囲気は作品を通してずっと感じていたけれど、ここで隆は自分のことでいっぱいいっぱいだから相手の表情が見えていないのもまたヤマモトの独りを浮き彫りにさせてしまう。こんな時ですらそんなふうに感じていた。そうなるように彼が接しているのもあるのかキャラクターがそうさせているのか、隆には見えなかった涙を拭いながら安心してひとつひとつ丁寧に、でも畏まらずに声をかけることができる上手さに抗えなくなってしまう。どうしてこう、こんなにも梅津瑞樹は芝居が上手いのか。


ヤマモト、隆も気がついたり気がつかなかったりのちょっとした違和感が作品を通してずっとある存在で。それこそ情報量は多いのにこちらへの情報がほとんどない。でも心を許してしまう懐の深さがあるの不思議な気持ちにさせられた。
種明かしされてわかったのはこの男の抱えているものがあまりにも大きすぎて、そしてそのトラウマを全て理解した上で前に進むことを諦めてしまっていること。まず自分の顔に恐怖心を覚えている男が梅津瑞樹の顔しているの良くない。し、相手を思い出しながら花束を持つ手がずっと震えていたのは乗り越えられていなかったからなんだよな。ひとつの命を分け合ったって表現しているところで2人でひとつなことを強調されてしまって。同じ姿をしているからこそ恐怖心を覚えてしまうの、理解はできるけどわかりたくない。
隆の前から姿を消して2年、フリーランス臨床心理士という肩書きを手に入れた時身につけているのは隆と一緒に買ったネクタイで。その姿を見た時に一定の距離は保っていたものの本心としてずっと友達でいたかった気持ちが痛いほど伝わってきてしまった。あんなに人の話を聞くのは得意なのに自分のことを伝えるのが下手くそすぎる。何も言わずに姿を消すのだってそういうことなんじゃん。そんな姿を突然お出しされてもじっとしていられるわけがない。そんな彼の前に突然隆が姿を表して。崩れ落ちるのを耐えるかのように白衣の裾をギュッと握りしめながらも隆に対してあの時姿を消した理由を「嘘で始まった出会いでずっと嘘ついていたから、これ以上人間不信になられたら困る」ってあたかも自分を正当化するように拒む。でも本当にまた会えたことが嬉しそうで、ネクタイ見ながら元気かなって思い出していた彼は隆を救ったことにより少しだけ前に進めていたのかもしれないなあ。
隆の「友達っていうのは!音信不通じゃなくて!〜」の言葉がストレートに、直接ヤマモトの中に響いていって握りしめている白衣がもっとぐちゃぐちゃになって、上手に感情表現までできないのがあまりにもヤマモトの不器用なところをさらけ出していて。そんな彼から出てくる言葉が「患者はここで出会うから」なのさすがに頭の血管が切れそうになってしまった。やめてくれ。
2年ぶりに再開した時には完全に隆とヤマモトの立場が入れ替わっていて、初めてヤマモトが隆と出会った時、かけた言葉そっくりそのまま隆がヤマモトにかけるの、結果自分にもその言葉が必要だったことを最後の最後で突きつけられてしまった。2人ともそれぞれに助けが必要で1人では生きていけないのに頼れる人間もいないから、自ら相手に頼られる存在にならないとっていう人間の面倒臭さまで伝えられてしまった。

しごやめくん、良かったかどうかも判断できないままヤマモトがグサグサ刺さってしまい、私情×ヤマモトヂカラ×私情×私情のせいでめちゃくちゃ疲れた。俺の私情がいけない。それはそう。うめつの顔をまともに見れないんだ俺は………




とりあえず原作買ったので円盤が届くまでには読む。また打ちのめされてしまうんだろうけど。


それにしても橋本祥平と梅津瑞樹って芝居が上手いしわたしはこんな予定じゃなかったくらい梅津瑞樹の芝居に喰らってしまった。ほんとうに、ほんとうに、こんな予定じゃなかったのになあ。